アクト-レヴュードライブ

備忘録的なものです。

『ドラえもん のび太の月面探査記』感想─想像力をもってして『ドラえもん』を統括する傑作SF。

小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」

実は劇場で見るのが久しぶりな映画ドラえもんシリーズ、キッズに紛れてみたら号泣しました。

※ネタバレ注意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の映画ドラえもんは、実質ジブリ的な冒険物語(宝島が原案だから当たり前といえばそうですが)な『のび太の宝島』と異なり、従来の『大長編ドラえもん』的なストーリーに原点回帰しています。ラスボスのビジュアルが『のび太の海底鬼岩城』的な想起をさせましたね、私的には。

ストーリー自体は、いつも通りジャイアン達にバカにされたのび太ドラえもんから……という筋書きで、今回のキーひみつ道具異説クラブメンバーズバッジとマイクです。そしてそれを使って月に文明を……というのが始まりです。

 

まあここの前半は映画特有のキッズ接待パートですね。実際子供心に異説クラブメンバーズバッジの設定はワクワクします。あと映画お得意の夢のようなシステム構築等々、毎年毎年すごいなと思いながら見てます。

後半からの流れもまた良かったです。シリアスパート入ってからのSF展開も非常に毎年クオリティが高く、雑に言ってしまえば「王道」の良さを実感させてくれます。

 

さて、本作のテーマに関する考察のような何かの話をしましょう。

表層的には友情と親子、そして実質的には想像力がメインテーマの作品だったんですよこれ。

まずあげたいのはうさぎ怪獣とディアボロの対比、という点です。

うさぎ怪獣は最初にのび太によって造られた創造物です。しかし、その姿が原因であっけなく捨てられてしまいます。そして再び現れた時、破壊者としてのび太達に襲いかかるのです。しかししずかちゃんによって、「仲良くしましょう」との言によってムービット達と友達(?)になることに成功します。

ディアボロはカグヤ星人達によって造られた、人工知能搭載型破壊兵器です。そしてその命を全うしたディアボロは、圧政者としてカグヤ星を統治し続けました。「ゴダートが治ればもっと良くなる」と言われるほどに。

うさぎ怪獣とディアボロの最大の違いは、その過ちを正す人がいなかったことです。うさぎ怪獣にはしずかちゃんがいましたが、ディアボロには誰もいません。正しい、より善い方向に進めようとする想像力を持った人が、誰もいなかったのです。結果としてディアボロは想像力を捨てる結果となったのは悲しいことでしょう。

 

「想像力は未来」、ドラえもんディアボロに叫びます。

同じ創造物として、祝福されなかった創造物として。

ドラえもんは、一介の子守ロボットにすぎません。本来なら、こんな地球をかけた戦いをするようなロボットではないはずなのです。

しかし、輝ける人類の未来を導くロボット、子守ロボットとして、想像力の力を知っているドラえもんは叫ぶのです。「想像力は未来」なのだと。

おそらくこの発言の伏線として、「人類の歴史は異説が切り開いてきた」というものがあります。

天動説ではなく、地動説が正しかったように、想像力は時として大きな歴史の転換点をもたらすことが多々あります。しかし、ノーベルのダイナマイトが悪用されたように、想像力は時として悪用されることもあります。しかし、それでも、とドラえもんは叫ぶのです。

ルカ達も、「子供なら僕たちを信じてくれると思った」ということを言っていました。それは、子供にある無限の想像力を期待してのことです。実際には、子供の間ですら色々とあるわけですが。

そして「子守ロボット」のドラえもんは、当然子供の、のび太達の想像力の力を知っています。それもよく。そして人類の誤った歴史もよく知っています。でも、人類を導くのは、ある種子供のような輝く想像力だとも、よく知っているのです。だからこそ、ドラえもんは叫べるのです。同じ機械として「想像力は未来」なのだと……。

 

もう一つ言いたいのは、本作でさらっと描かれている親子の物語です。

ルカは、当初自分達は親から祝福されず、忘れられたと思っていました。しかし実際には、その未来を祝福されていた存在でした。その象徴が、あの青い石です。いつか帰ってくるルカ達のために、ゴダール博士夫妻が残していたものでした。

そしてこのシーンの対となるシーンが、のび太のママが、帰ってきたのび太におやつを用意していたシーンです。

のび太のママとは、やや典型的な厳しい親として描かれています。しかし、その実態は、息子を思い、心配する普通の母親なのです。その厳しさも、愛ゆえのものでしょう。だからこそ、のび太におやつを用意するのです。

対して、ルカの母(実際には違いますが、面倒なのでこう呼びます)も、息子に対して厳しく接しました。実際には、引き止めたくなるほど辛いのを隠して。しかし悲しいことに、これがこの親子の最後の対面となってしまったのです。

だからこそ、ルカは終盤、「おやつと一緒だ」と言ったのです。親の思いやりを理解したから。のび太がこれを理解するのは、きっと遠いことでしょうが。

 

ところで、一つ気づいたことを。ルカが最初にのび太の部屋に侵入した時の部屋に積んであった本のタイトルが、確か『宝島』『いぬねこずかん』『日本神話』だったんですよね。上記二つはともかく、日本神話に関してはのび太が?みたいな本なので、おそらくですが、この映画のモチーフの話をしてると思うんですよね。『宝島』は前作をうけてのファンサービス、『日本神話』は本作のビジュアル的なモチーフとして、『いぬねこずかん』だけよくわからないんですよね。どなたか、有識者の方、解説コメントお願いいたします。

 

いやーほんとうにすごい映画でしたよこれ。ここまで『ドラえもん』の究極の二次創作みたいな映画が観れるとは思ってませんでしたからね。軽く調べたら脚本の方がどうも強火のファンっぽくて納得です。

しかし、のび太と異種族の友情物語、本当に外さないですね『ドラえもん』。今回は非常に良質でしたし、主題歌も合わさってもう本当にボロボロ泣いてました。

ラスト、ルカ達は異説の中で定命の存在として生きることを決意しました。しかし、のび太はそれを、涙を見せずにこう言いました。「僕らはいつも一緒だ、想像力があるのだから」と。

のび太もいつか大人になり、しずかちゃんなりジャイ子なりと結婚したりするときも来るでしょう。しかし、その想像力が衰えないことに、願いましょう。そして、僕らには、想像力という未来を描く力があることを忘れないようにしたいですね。