アクト-レヴュードライブ

備忘録的なものです。

多様な価値観と内包するアンビバレンスを描く『ラブライブ!虹ヶ崎学園スクールアイドル同好会』

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 大きな躍進を遂げた「ラブライブ

ラブライブシリーズも既に10年選手の仲間入りを果たそうとしています。。アニメシリーズが放送され一世を風靡した時代を横目で眺め、そして続編『サンシャイン』の終わりに直面したのが初めてのラブライブでしたが、シリーズを通して描いているテーマも時代に合わせて少しづつ変わってきていると感じます。

ラブライブ!』では、自分達の所属する学校そのもの、すなわち“場”を中心とし、全員で一つの目標へ向かっていく姿を描き、『ラブライブ!サンシャイン!!』では先達が創り上げたものを引き継ぎ、それを終わらせること、続けることの是非を描いていました。あえて言うならば、両者ともに大きな一人の主役を中心にしてストーリーが進行していた、ということでしょうか。故に主役以外に当たるスポットの量は限られていましたし、主役以外の価値観は変容を余儀なくされ、一つの極地が『ラブライブ!The School Idol Movie』です。

対する『ラブライブ!虹ヶ崎学園スクールアイドル同好会』は、過去の作品が創り上げた土壌を受け継ぎ、なおかつ現代で描くにあたり全く新しい物語を提示しました。

先述しておきますが、僕は虹ヶ崎シリーズの他の作品に触れていません。なので、あくまでもアニメシリーズ本編からのみ読み取れることについての文章であることを明示しておきます。

ラブライブではない『ラブライブ』を描くこと

『虹ヶ崎』は既にスクールアイドルという存在が現実に根付き、あって当たり前の存在として描かれています。その上で、スクールアイドルをやりたい9人の少女達の葛藤と成長を描いている物語です。

既存のシリーズと大きく違うのは作品における最終目標が「ラブライブ」に出場することでは無いことです。「ラブライブ」とは、従来の作品においてスクールアイドルが競う大会の頂点とされたものであり、この大会で優勝することこそが絶対の価値でした。

しかし、スクールアイドルが普遍的な存在となった今、ラブライブを目指すことはとても負担の大きいものとして描かれています。第三話までは、実際にラブライブを目指し厳しい特訓をすることでグループ内に不和が生まれてしまう様子を描いています。

が、ここで従来と違う様子を見せたのは、ならばラブライブに出場しなければいい、という価値観を提示したことにあります。そもそも、スクールアイドルをやっているのは、多くの人達にパフォーマンスを届けることが目的であり、ラブライブ出場及び優勝はあくまでその過程、手段にすぎません。しかしながら、ラブライブで優勝することそれ自体に価値が付与されたことで、絶対にラブライブに出なければならないという強迫観念があったものを、見事に打ち破ってみせたのです。

また、この新しい価値観の提示の前提として、スクールアイドル自体の多様化もあります。本作でラブライブを目的から外すきっかけとなった中須かすみと優木せつ菜の対立は、ストイックにレベルの高いパフォーマンスを目指す優木せつ菜に対し、自分らしいかわいいアイドルになりたい中須かすみの目指すアイドル像の相反が原因でした。

そしてラブライブに出なくていい、ということに続き、一つのグループだから個々人の理想を抑圧する必要性があるのか?という部分にも切り込みます。これは『ラブライブ』や『サンシャイン』でも少しだけ描かれていたテーゼですが、両者では軸を絶妙にずらすことでこの問題に答えを出していませんでした。ですがある種の聖域と化していたこの問題に対し、『虹ヶ崎』は9人でソロアイドルをやればいいという回答を提示します。それぞれが反目してしまうならば反目しないようにすればいい、という答えです。誰か一人の大きな価値観を絶対とする従来のラブライブ観から、一人一人の価値観を大切にする形へと変わったとも言えます。これについては、非常に現代的であり多様性の時代を反映したものだと感じています。

グループと個人の対立

以上のように、「ラブライブ自体の聖域化を無くす」「グループの9人の価値観を尊重する」と、作品自体の中核であるラブライブ、作品の大きな枠であるグループ即ち虹ヶ崎スクールアイドル同好会の描き方を変容させてきていることが確認できました。そして最後に、グループ内にいる9人、及び10人目も含めた、作品を構成する最小単位であるキャラクターについて述べていきたいと思います。

本作では大小様々な全体と個人の対立が描かれています。スクールアイドルと同好会、グループと個人といった形で描かれたそれは、当然、キャラクター個人のうちにあるアンビバレンスという形で描かれることとなります。特に大きなものが、本作における主要なキャラクターである上原歩夢です。

上原歩夢は主人公である高咲侑の幼馴染であり、彼女と共にスクールアイドルに魅せられ、アイドルになることを決意した人物です。その際に、高咲侑はアイドルではなく、それを応援するファンの立場から同好会の立ち上げに関わり、以降マネージャー的な存在として活躍します。一方、上原歩夢はスクールアイドルそのものに惹かれた一方で、高咲侑への愛情あるいは執着とも取れる感情を抱いており、本人の言を借りるならば「侑ちゃんのためのアイドル」であり「私だけを見ていてほしい」という動機からアイドルになりました。

言うまでもなく、これは大きな矛盾を抱えています。本質的にアイドルとは大衆に対して何かを伝えるものであり、またスクールアイドルも同様の存在として描かれています。しかしながら上原歩夢はその他大勢ではなく、高咲侑個人にのみ何かを伝えるためにアイドルになりたいと考えているのです。

『虹ヶ崎』ではこの矛盾に上原歩夢自身の夢、あるいはやりたいことという形で解を出したのです。すなわち、上原歩夢自身の内にある情熱と、高咲侑への執着、どちらも両立しうるものであり、それは表層としての形は変わっていくけれど思いは決して変わらない、変わりはしないと信じる……という答えです。互いに異なる価値観、異なる夢を抱き歩み始めた彼女たちですが、一番大切で深い部分では決して変わることなく同じ夢を見続けている。それこそが『虹ヶ崎』が提示したスクールアイドルです。

そうして描かれた最終回はこれまでの総括をしつつもどこか古めかしい「ラブライブ」的な最終回となりました。みんなで作り上げたライブにアクシデントがありながらも、ファンの想い、そして諦めなかったアイドルたちの力によってスクールアイドルフェスティバルは成功を収めます。最後に物語は高咲侑=あなた自身が新たな挑戦へと一歩踏み出して終わりました。

これは単なる今までのラブライブのなぞりでは無く、『虹ヶ崎』という、個人を重んじながら互いを尊重する物語の過程の先にあることが重要なのです。個人を優先しては他人との関わりを疎かにしてしまい、他人を優先すれば自分を押し殺さなければいけない。そんな矛盾に対して『虹ヶ崎』は真っ向から挑みました。そして他者をリスペクトし、同時に自分自身を大切にする、そんな矛盾を貫くようなスタイルを突き通したからこそ、ファンの協力によってライブを成功させることができたのでしょう。

それは非常に優しい夢物語でもありますが、理想を掲げ突き通すことこそ、フィクションの本懐。とても素晴らしい物語でした。

 本作が作り上げていた構造

最終的なまとめに入りたいと思います。繰り返しになりますが、本作で描いていたのは理想と現実の間にあるどうしようもない矛盾であり、そして人と人の間にある絆でそれを乗り越えていく姿です。むしろ矛盾を矛盾のまま抱え、不完全ながらもそれを補っていくことで前に進んでいく、非常に王道な青春物語です。

その青春物語を描く上で、個人と個人という最小単位から始まり、個人とグループ、グループと組織、組織と世界、世界と物語そのもの……といくつもの構造を重ね強固な物語を作り上げているのがすさまじい点でしょう。これは創作の基本ですができている物の方が少ないことは言うまでもありません。本作の更に素晴らしい点としては、背景美術までも精密に設計され描かれている点です。ストーリーの語りをより頑強にするために背景すらも利用する。これは全てを一から作り上げるアニメの特権でありますが、本作はその精度すらすさまじいものでした。

もちろん、本作の素晴らしい点は物語設計のみでなく、使用されている楽曲、作画、そして声優が見せた素晴らしい演技と歌唱などまだまだありますが、それについて語るにはあまりにも文字数が足りず、またそちらについては語りえぬため、ここでは一つに絞らせてもらいました。

放送が終了した後もDアニメストアなどで配信していますし、年明けからBS11で再放送が始まるようなので、ぜひとも視聴の機会があれば見ていただきたいですね。また、YouTubeでは話題を呼んだライブシーンが単独でアップされていますので、それだけ見ていただくのもありかと。


【限定公開】Dream with You / 上原歩夢(CV.大西亜玖璃)【TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第1話ダンスシーン映像】


【限定公開】Butterfly / 近江彼方(CV.鬼頭明里)【TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第7話ダンスシーン映像】


【限定公開】虹色Passions! / 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 【TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』オープニング映像】

第二期の制作はまだ決まっていませんが、個人的にはここで終わるのも非常に美しいかと思う一方で、まだ彼女たちのバラバラながらも共に歩んでいく姿をまだ見ていたいと思う気持ちもあり、こう思えるような作品に出会えたことがとても嬉しいです。