『ニュー・シネマ・パラダイス』感想─「映画」を通して郷愁を否定する傑作。
好きな映画は『リベリオン』『イコライザー』『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』『ミッション:インポッシブル ゴーストプロトコル』と言ったアクション大作な僕ですが、『ショーシャンクの空に』を観て以来所謂「シネフィル」的な作品も観るようになりました。アクション映画でもちゃんと心理描写が鋭い映画も多々ありますが、やはりそこに重点を置いている映画は強いですね。
『ニュー・シネマ・パラダイス』もそんな感じでTLでよく見かける映画だったので観たかったので、午前十時の映画祭様々といったところですね。
※ネタバレ注意!
この映画は所謂「お仕事映画」の類ですね。この手の作品はそれを通じて何かを描き出すのがメジャーですが、この作品もその例に漏れず、テンプレを突き通して深い味わいのあるものを描いています。
ニューシネマパラダイスを観ました。実質少女☆歌劇 レヴュースタァライトだった。
— 解釈違いの地雷原 (@CGB_001) 2019年8月15日
想像以上にスタァライトとニューシネマパラダイスが被ってしまって驚いてる。テーマがさ……。
— 解釈違いの地雷原 (@CGB_001) 2019年8月15日
僕的にはこの映画はかの傑作アニメ、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』です。普段こんなこと言わないんですが、この作品に関してはマジで観ている途中にオーバーラップして思わず泣いちゃったんですよ。
少女☆歌劇 レヴュースタァライトにおいて郷愁の否定はそこまでフォーカスされてないけどかなり重要な部分で、大場ななの「再演」を否定したように神楽ひかりの「贖罪」を否定するんですよね。過去と向き合うのではなく、それを清算し、未来へ向かえと。
— 解釈違いの地雷原 (@CGB_001) 2019年8月15日
ニューシネマパラダイスは郷愁を否定する映画で、それと映画をオーバーラップして見事に描き上げてるわけですね。
— 解釈違いの地雷原 (@CGB_001) 2019年8月15日
郷愁は否定されるべきだし、過去は振り返っても立ち返るべきところではないけれど、何十年も経ったあくる日に、ふとそこにあるものを感じるのもいいかも知れない、みたいな話だったな……。
— 解釈違いの地雷原 (@CGB_001) 2019年8月15日
『スタァライト』における重要な要素として挙げられるのが「過去と今と未来」です。主人公たる愛城華恋は常々「舞台少女は日々進化中」と言い、度々登場するセリフとして「再演でも、同じ舞台は二度としてない」というものが何度も登場します。そしてそのテーマの結実としての最たる例は第七話から第九話(広義で言えば最終話まで)の「再演」です。
大場ななによる「再演」で、彼女は何度も何度も一年間を繰り返します。「あの時」のキラめきを求めて。しかし、それは未来を見据える主人公たる愛城華恋によって破壊され、親友の星見純那によって未来への意思として昇華されます。
ここの流れの美しさは実際に見てもらうとして、肝心なのは『スタァライト』の根底に流れる「未来へと向かう意思」です。大場ななもその形は不器用ながら、確実に未来へと向かっていました。愛城華恋は贖罪として過去に囚われる神楽ひかりに対し彼女を断罪することで未来へと解き放ちました。
この映画─『ニュー・シネマ・パラダイス』も同様のテーマを描いています。
冒頭は「30年間帰ってこない」「忘れたかも」と過去を意識させるワードが飛び出してきます。そしてサルヴァトーレの回想という形でトトの成長が描かれます。
ここで映写室というロケーションを選んだことが最高で、言ってみれば映写室……つまり、映画館とは「過去」を上映する場所なんですよ。この作品における映画は郷愁(ノスタルジー)の象徴として扱われています。何度上映しても消えることのない、美しい過去の思い出。それは一度燃え尽きることで形が変わりますが、やはり不朽のもの。そんなある意味で永遠にも等しいものに子供が憧れを抱くのは、なんら不思議じゃないんですね。
アルフレードは成長したサルヴァトーレ……トトに、何度も村から出るように言います。過去を振り返り、郷愁に囚われるのではなく、広い世界に出て思い出を忘れ、何十年もした時にふと振り返れるように。悪意から言っているのではなく、より広い世界で強く生きられるように。それはアルフレードには成し遂げられなかったことです。
アルフレードは死の間際に「自分のことは言うな」と言っていたわけで、それだけ過去に囚われて欲しくなかったことがわかります。結果として、母親によって伝えられてしまうわけですが、形見として残していたものがあれなあたり、計算のうちだったんじゃないかなぁと思いますね。
映画の話もそこそこに『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の話を半分ぐらいしてしまいましたが(本当にいいアニメなので見てください……dアニとかで……YouTubeで一話恒常無料です)当然それ以外の部分も良かったです。
映画館の常連達のディテールも、セリフ等が無いにも関わらず各人の性格がわかるような演技がなされていたのが特に凄い。地味な点ですが、こういう細かい部分が気になってしまうのが僕の悪い癖。まあ、細部まで作りこまれてるのが好きなんですけどね。
とにかく人間の描写が良くて、ある種カリカチュアの仕方がアニメ的な部分もあって、みんな濃いのは良かったですね。名前一人たりともわかりませんが。
まあ不満点が無いわけではないですよ。あれだけ恋愛描写に時間割いた割にオチがかなり投げっぱなしなのが。そこに関してはディレクターズカット版があるらしいので観たさありますが、とはいえあの形でだいぶ満足している部分もあるので難しいですね……。
ふと思いましたが、チェーホフの銃ってあるじゃないですか。僕は『1Q84』を例に挙げてバンバン叩きましたが(ツイッター見てね!)、この映画でも同じようなことが言えると思います。だって、ほとんどの描写、いらないじゃないですか。無駄ですよ無駄。広場の男とか何故配置されてるのかわからないし、アルフレードの失明描写は無くても話が成立します。でもどれもあれば世界観に……なんでしょうね、深みとか、そういうものが生まれるんですよね。伏線まみれのガチガチな管理映画を観たいのも理解しますしそういうのも好きですが、無駄や遊びのある作品の方が美しいとは思いますね。大体この手の話するやつって大体『インターステラー』とか挙げてくるんだよな。あれこそガバガバだっつーの。
割と身構えずに言ったら想定外のところにクリティカルヒットしたこの映画ですが、ラスト付近で言っていたセリフが印象的です。
「映画館には人が来なくなった、ビデオやテレビが普及したからだ」……という。
これも一つの真理とは思いますが、午前十時の映画祭で平日にも関わらずほぼ満席になるほど今でも映画館に映画を観に行く人はいますし、SNSでは「映画館で映画を見ること」の意義が今なお取りざたされたりします。 つまり、映画館はまだまだ捨てたものでもない、という話です。
少なくとも僕は観れるだけは映画館で観たいですね。爆破される前に。
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