アクト-レヴュードライブ

備忘録的なものです。

『イソップの思うツボ』感想─華麗なる逆転の誘拐劇を以ってして、映画を描く傑作。

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全然話題になってなくて普通に驚きなんですが、皆さんは知ってますかね。『イソップの思うツボ』。『カメラを止めるな!』製作陣が再び集い作り上げた映画です。例によって本当に観たい映画に関してはタイトル以外の全てを遮断して臨んだんですが、おかげでかなりイノセンスな体験ができたと思います。

※ネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に面白かったです。まず僕は『スティング』を初見でめちゃくちゃびっくりしたぐらいの力量しかないことをここに明言しておきますが、それを踏まえてここから読んでください。

前述の通り、宣伝を全く見ていなかったので、冒頭の流れを見て今作が青春ラブコメものなのか、と思ったわけです。

が、怪しくなっていく雲行き。そしてOP前のあのカットですよ。この映画が甘いものではないことを示す不安定な電灯のフラッシュ。演技も相まってあのシーンの迫力は凄まじいものでしたね。

まあとは言え、この映画がただの恋愛青春映画ではないことは3人目の戌井さんパートで明らかですが。あの辺りから本格的にね……という。

しかし、『カメラを止めるな』の時も思いましたが本当に構造の転換が巧いんですよね。恋愛ものかと思ったら、その実誘拐と復讐の物語だった、と言う。そしてこれも『カメラを止めるな』から引き続きと言う感じですが、とにかく撒いた要素の回収が巧い。伏線の是非について少し前に話題になっていましたが、そこを主軸においてかつちゃんと巧いと観ていて凄い気持ちいいんですよね。

 

本作のテーマ的な話をしていくと、これは割とマジな話で『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でしたね、実質。

この映画の所謂悪役として配置されているのがカタギではない、他人の復讐を台本に仕立て上げてビジネスとする人達です。そして人の死を楽しむ富豪。映画映画であった『カメラを止めるな』の後にこれを繰り出してくると言うことに凄い意義があると僕は思っています。

『ファーフロムホーム』のヴィランが映像表現を駆使する、ある種映画そのもののメタファーである存在であったように、本作の悪役も物事を台本で進む映画のようにする人達です。前作では映像作りを主題にしておきながら今作ではそれを一転して敵に配置するその胆力がまず凄いんですよね。

そして近藤も、観客達も、期待通りに事が進まなければ文句をつけてきます。まるで期待外れの映画を叩くかのように。そう、この映画は「映画」という構造そのものを描いているんですよ。

ラスト、亀田美羽はカメラを撃ち抜きます。「リアル」である存在をエンターテインメントとして消費されることを拒むかのように。人間は映画の登場人物ではない。現実とは画面の向こうの話ではない。そんなことを言いたいのかなと、僕は思いました。

 

本当に予算が増えてよかったと思ってるんですよ。僕は観てないんですが、『カメラを止めるな』の続編が相変わらずの低予算と聞いて戦慄していたのも事実なので。実力のある監督にちゃんと金を渡して映画を撮らせるのがこの世の望ましい形であると思っているので。事実、予算が増えたことで映像の質とかは向上しましたけど、『カメラを止めるな』から本質はそう変わってませんしね。そういう部分を変にしなければ、という話です。

後主役の人達、みんな良かったですね。演技も上手でしたし、今後に期待したいです。

まあ別に不満が全くないわけではないです。監督が三人いたということで、確かにシーンごとに割と撮りかたが全然違うな、とは思いましたが、それ以上のことはありませんし、戌井一家は完全に舞台装置以外のなにものでもありません。 終盤のシーンは画面の緊張感に対して間延びして退屈な画になっていました。確かに撒いた要素は全て回収されましたが、正直いる?みたいな要素もありました。が、しかし、この映画が映画として人間を消費することに対する痛烈な皮肉の映画であることを考えれば、無駄があることも納得なんですよ。何故ならば、この世は伏線を張り巡らせた作品のように完全で美しくはないからです。

 

一部ではやや不評を見かけたりしますが、僕としては今年でもトップクラスでした。10月にはまた上田監督の作品をやるということで、楽しみです。今度はギャグらしいですしね。

 

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