池井戸潤『鉄の骨』──圧倒的な伏線回収で魅せる、正義の物語
先日、池井戸潤先生の『鉄の骨』を読みました。
池井戸先生らしい、熱い小説だったと思います。
※ネタバレ注意!
『鉄の骨』は、言うまでもなく正義とは、仕事とは何か?を読者に問う物語です。
談合をベースに、作中で様々な人物が正しさについて疑問を持ち、苦悩する。
主人公の平太は、畑違いの業務課に配属され、談合の正しさについて考えることになるし、その恋人の萌は、不倫すべきかどうか、内部情報を漏らすべきかどうか悩む。ついでに言うと、地検特捜部の検事は、自分達の操作の正しさに悩む。
それぞれのスポットの当たる人物が、自分のやっていることが正しいか悩んでいる。それは作者の心情にも思えるのは、論理の飛躍でしょうか。
ストーリーについて話すと、本作は工事と談合、そして政治家の汚職がメインとなる物語です。
序盤は工事、つまり建設業界の現実を読者にわかりやすく提示し、談合が必要悪であると示す。しかし中盤に入る頃、それらの認識がたびたび徹底的に否定される。そして物語が終盤に向かうにつれ、談合の腐った必要性が明らかになっていきます。
解説で指摘されているように、僕もまた、池井戸先生の仕掛けに引っかかった一人で、談合が正しいのかどうか、しっかりと考えさせられました。
しかしそれの実態は、どう取り繕ったところで、腐った政治家が私服を肥やすための手段でしかないことが物語中では示されています。
つまり池井戸先生の結論とは、談合は絶対悪であると言うことだと思います。
しかし、ラストシーン、平太が明確な答えを出さないように、談合についての正しさもまた、読者一人一人に委ねられていると思うのです。
そう言う意味では、かなり挑戦的な小説であると思いましたね。
また2000億円規模の地下鉄工事を巡る「攻防」についても、池井戸先生が得意とする伏線回収が惜しみなく用いられています。
その仕掛けが明らかとなった瞬間のカタルシスは、是非とも読んで体験してほしいものです。
あとこれはネットで感想を検索した時に気になったことですが、平太の恋人、萌について。
確かに彼女は池井戸作品では珍しく、割と擁護のしようのない〝悪女〟でしたが、それはどうしようもない人間のエゴを描いた本作ならではのことかと思います。
上記で述べたように、萌は彼氏と職場の魅力的な同僚との間で揺れ動きます。
しかし、それは仕方のないことだったのかもしれません。
平太の持つ要素に飽き、半ばうんざりしていた彼女は、違った魅力を持つ──分かりやすく言えばインテリ──な園田に惹かれます。
しかし園田と付き合っていく中、自分の平凡さ、園田の傲慢さ、平太の魅力を認識していくことになります。
平太が本編通して、純粋で正義感の強い青年として描かれているのと対照的に、萌は様々なしがらみの中で揺れ動く女性として描かれます。そして最後には、居心地のよかった平太を選ぶのです。
まあ身勝手と言えばそうなりますが、三橋萬蔵と並んで最も人間味のあるキャラクターだと思います。だからこそ、嫌われるのだと思います。
文庫にして600ページ長の小説ですが、その長さを感じさせることなく、且つ非常に多くの要素を盛り込んだとても読みやすいエンタメ小説でした。
あと僕はみたことないのですが、どうやらドラマ版があるようなのでAmazonのリンク貼っておきますね。