アクト-レヴュードライブ

備忘録的なものです。

映画『七つの会議』感想─正義を、語れ。再構築の非常に秀逸な名作。

映画「七つの会議」オリジナル・サウンドトラック

 

映画「七つの会議」オリジナル・サウンドトラック

映画「七つの会議」オリジナル・サウンドトラック

 

 

正直に言います。全く期待してませんでした。

近年の『陸王』や『下町ロケットゴースト/ヤタガラス』のドラマオリジナルが若干暴走気味というか、下手だったし、『空飛ぶタイヤ』は原作の事象をただ羅列しただけの映画だったので、不安が大きかったんですよ。結果としては、大満足に終わりました。

※ネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

ブラック企業の不正にまつわるアレコレを描く、企業ミステリである本作。

空飛ぶタイヤ』と違い、『半沢直樹』等の池井戸原作をうまく再構成してきた日曜劇場のスタッフが手がけたということで、まあ不安強めながらも、どこか期待していたわけです。

結果は何度も言っている通りの大当たりだったんですね。

僕が原作の大ファンなので、恐らく原作との違いを羅列していく感じの内容になることは断っておきます。

まず主人公が、原作では文字通り七人(+α)のサラリーマンや社長らが交代して描かれていた物語が、今作では視点移動を交えつつ原島メインの形に再構成。それに伴って、原島の行った「不正」も無くなりました。ここに関しては、劇場で思わず膝を打ってしまいました。まあ及川光博さんが演じたらそうなるかなって感じですね。

また、作中で経過する時間も大幅に変更されています。原作は劇中の描写から、数ヶ月〜一年程度と推測されますが、映画では二ヶ月程度になっています。それによって、劇中で起こる事象も凄まじいペースで起こることになり、密度がやばいですね。

正直、ねじ六や無人ドーナツ販売所関連は全カットもあり得るかな、と思っていたので、(ねじ六に関してはほぼ一瞬だったものの)きっちりと描いてくれてよかったです。

更に、再構成によって一部登場人物やイベントがカットされました。例えば、原島の兄弟や、八角が離婚→子供二人から恐らく成長途中の娘一人に、などです。浜本さんのパートナーとなる個人事業主のベーカリー三雲の三雲英太さんは存在は示されるものの、単に罵倒されるヘイトを新田に集める役割になっていたのは心底気の毒でした。まあ2時間足らずにあのストーリーの骨子を残しつつうまくまとめるには色々と削らざるを得ません。僕のお気に入りキャラの木内さんも削られましたが。

原島の不正関連が全部カットされたので、八角に全ての因果が集中する形になっていたのは素直に上手だな、と思いました。映画的主役は原島でも、物語上の主役は発覚で、原作だと群像劇的な面が強かったので結構散らばりがちだったんですよね、因縁が。あと中盤の飯山と北川の会議シーンで、やってないことを原島にふっかけた、という行動になったことで、事件自体の不可思議さがより際立つのに役立っていたので、ここら辺は文句ありません。

あとこれが多分原作との一番の違いだと思うんですが、北川、ひいては東京堅電関連に大きな味付けがなされてきます。

原作だと北川は、自己正当化の末に不正によって破滅する、悲壮感漂う(地の文からはボコボコにされていましたが)キャラクターでしたが、映画ではドーナツをちゃんと食べる等に代表されるように、今ではモーレツ社員!といった感じであるものの、本来は悪い人ではなかった、という面がフォーカスされています。また、何故か原作にあった偽ライオンという渾名が消滅しています。

更に、東京堅電社長宮野は、野球部だったという設定が追加され、それによってわかりやすいトーメイテック江木との接点が追加される、原作よりも詭弁と自己弁護シーンが増えたことでクズっぷりが増すなどの調整がされています。

あとこれは笑った改変なんですが、東京堅電の社用携帯にGPS追跡アプリが標準搭載されているのは、東京堅電のブラックさの補強になっていたので笑いましたね。

と、全体的な物語に関しては特に文句がないのですが、細部に歪みが生じています。

例えば、上記に挙げた原島の兄弟設定の消滅。原作では、原島も坂戸も次男坊であり、人知れず劣等感を感じていたのだ、というところでリンクするように設計されています。まあ、原島も坂戸も、互いのことを知ることはないのですが、単純にこれは読み方の好みの話だと思います。

また、原作のメインキャラは全員出したものの、出番に差異があるので、原作には存在した会議シーン(ねじ六経営会議、浜本の無人ドーナツ関連の会議、計数会議、編集会議等)が消滅した結果、概念的な七つの会議ではなく、シンプルな会議数としての七つの会議になっていたことは少々いただけません。言ってて思ったけど、七つあったか?

また原作では、仕事をすること、ひいては何故仕事するのか、というのがメインテーマでしたが、映画では何故不正は起こるのか?というのがメインテーマになっていて、そこら辺も原作の空気感が残っているのでそれとなくノイズになっていました。

本作で重要なアイテムの「ねじ」は、恐らく池井戸先生にとってものづくりの、客商売の、働くことの最も小さな単位であり、最も大事なものであると僕は考察しているのですが、(これは『半沢直樹』シリーズのオレたちバブル入行組に詳しい)だからこそそのねじの偽造耐久度まで数値設定したわりには、そこら辺のテーマが無視されているのはなんだかなぁ、と感じました。

まあ地の文セリフ展開ストーリー全部使って「誰が為に働く」を描いた原作を二時間でやるのは無理でしょう。そこら辺の割り切り方は好きです。

まあ原作だと二十年前の罪しか問われなかった梨田に全ての因縁が集中する形に改変したのはよかったですね。ドーナツの対比も効果的でしたし。

まあこき下ろしたりもしましたけど、総評としては非常によい映画化だったと思います。役者さんの演技も非常によかったので、是非とも観て……観て……観ればいいんじゃないんでしょうか?後悔はしないと思います。

 

七つの会議 (集英社文庫)

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映画「七つの会議」オリジナル・サウンドトラック

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